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サージカルスモークの説明

新型コロナウイルスとサージカルスモークをめぐって

2020年3月30日

米国内視鏡外科学会(SAGES: Society of American Gastrointestinal and Endoscopic Surgeons)とヨーロッパ内視鏡外科学会(EAES: The European Association for Endoscopic Surgery)は連名で「COVID-19危機における外科的対応に関するSAGESおよびEAESの推奨」(SAGES AND EAES RECOMMENDATIONS REGARDING SURGICAL RESPONSE TO COVID-19 CRISIS)を出しました。

2020年4月1日

日本医学会連合と日本外科学会をはじめとする12学会も連名で「新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言」を発出しました。

4月10日に改訂されています。

エアロゾルを発生し得る処置としては、気管挿管および抜管、気管切開、マスク換気、気管支鏡、胸腔ドレーン留置、消化器内視鏡、消化器などの電気メス処置、腹腔鏡などがあり、これらの処置に際しては飛沫感染のリスクが高まることを認識する。
腹腔鏡手術にあたっては、エアロゾル発生の原因となることを認識し、高精度フィルターおよび排ガス装置などの条件を必ず確認したうえで実施する。
電気メスを使用する際は排煙装置を用いる。

と提言の中に記載されています。突然排煙装置と言われて面食らった先生方も多いと思いますが、海外では以前よりサージカルスモークの有害性が指摘されており、排煙装置が普及しつつありました。日本ではまだほとんど普及していません。

サージカルスモークとは

  • サージカルスモークとは、電気メスや超音波凝固切開装置、レーザーなどで生体組織を焼灼・凝固・切開する際に発生する煙や蒸気、エアロゾルの総称です1)
  • 約95%が水分で、残りの5%は細菌やウイルス、細胞の破片、微粒子、ガスなどです。
    微粒子やガスの刺激で気道に悪影響を及ぼすのみならず、細菌やウイルスを伝播する可能性が指摘されています1)
    つまり、感染部位に手術デバイスを使用した場合、ウイルスを含むエアロゾルが発生する可能性があります。
    実際、以前より子宮頸部の手術でヒトパピローマウイルスが術者の喉頭乳頭腫2)や舌癌・中咽頭癌3)の原因になる可能性が指摘されています。
  • 欧米のみならず、日本手術医学会の「手術医療の実践ガイドライン」4)でも、排煙するべきであると以前から推奨されています。
  • 新型コロナウイルスは、血管内皮細胞5)や消化管6)、便中7)に存在することが報告されています。
    気管切開、肺切除などの際はもちろん、消化管の手術でもウイルスが飛散する可能性があります。
  • サージカルスモークに含まれる粒子の大きさは様々ですが、小さいものではサージカルマスクのフィルターを通り抜けます1)し、顔とマスクの隙間から容易に侵入します。
  • サージカルスモークは発生源で可能な限り吸わないと、手術室内に拡散します。2インチ以内で吸引する必要があります8)
  • 新型コロナウイルスについては多くの無症候感染者もいることが分かっています。術前に新型コロナウイルス感染の有無を確実に調べる方法がないので、あらゆる手術においてサージカルスモーク対策が必要です。

参考文献

  1. Okoshi K, Kobayashi K, Kinoshita K, Tomizawa Y, Hasegawa S, Sakai Y. Health risks associated with exposure to surgical smoke for surgeons and operation room personnel. Surg Today. 2015 Aug;45(8):957-65. doi: 10.1007/s00595-014-1085-z. Epub 2014 Nov 25. Review.
  2. Hallmo P, Naess O. Laryngeal papillomatosis with human papillomavirus DNA contracted by a laser surgeon. Eur Arch Otorhinolaryngol. 1991;248(7):425-7.
  3. Rioux M, Garland A, Webster D, Reardon E. HPV positive tonsillar cancer in two laser surgeons: case reports. J Otolaryngol Head Neck Surg. 2013 Nov 18;42:54. doi: 10.1186/1916-0216-42-54.
  4. 手術医療の実践ガイドライン.日本手術医学会. S104
  5. Varga Z, Flammer AJ, Steiger P, Haberecker M, Andermatt R, Zinkernagel AS, Mehra MR, Schuepbach RA, Ruschitzka F, Moch H. Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. Lancet. 2020 Apr 20. pii: S0140-6736(20)30937-5. doi: 10.1016/S0140-6736(20)30937-5. [Epub ahead of print]
    https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2820%2930937-5/fulltext#articleInformation
  6. Xiao F, Tang M, Zheng X, Liu Y, Li X, Shan H. Evidence for Gastrointestinal Infection of SARS-CoV-2. Gastroenterology. 2020;158(6):1831‐1833.e3. doi:10.1053/j.gastro.2020.02.055
    https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7130181/
  7. Xu, Y., Li, X., Zhu, B. et al. Characteristics of pediatric SARS-CoV-2 infection and potential evidence for persistent fecal viral shedding. Nat Med 26, 502–505 (2020). https://doi.org/10.1038/s41591-020-0817-4
    https://www.nature.com/articles/s41591-020-0817-4
  8. Fan JK, Chan FS, Chu KM. Surgical smoke. Asian J Surg. 2009 Oct;32(4):253-7. doi: 10.1016/S1015-9584(09)60403-6.